
トンネルにおけるローカル5Gによる超低遅延の4K映像伝送
トンネル工事の現場でローカル5Gの実証実験を行い、超低遅延で4K映像の伝送ができましたのでご紹介します。
はじめに
FORXAI開発センター アーキテクチャ開発部の朝本です。
低遅延カメラ(FORXAI Experience Kit Low Latency)や5G関連技術の開発を担当しています。
先日、北海道のトンネル工事の現場で株式会社ミライト・ワン、株式会社 安藤・間とローカル5Gの実証実験を行い、超低遅延で4K映像の伝送ができましたのでご紹介します。
実証実験について
トンネル工事の現場では労働環境の改善や省力化・省人化が求められており、建設機械の遠隔操作や作業現場の遠隔監視に期待が集まっています。
それに対して、遠隔の映像と操作との間に時間的なずれがあると、遠隔操作が困難になるという技術課題もあります。一般に映像が100ms以上遅延すると遠隔操作が難しくなると言われています。そこで100ms以下で映像を伝送できるカメラとシステムが必要とされています。
今回の実証実験では、株式会社ミライト・ワンが可搬型のローカル5G基地局を設置して無線環境を構築し、トンネル内の電波状況や通信スループットの測定を行いました。コニカミノルタは自社の低遅延カメラを使って映像品質の確認と映像伝送遅延の測定を行いました。実験用の電波が外に漏れることが無いようにトンネル内部にローカル5G基地局を設置して、トンネルの奥に向かって電波を飛ばし、5G受信端末との距離を徐々に延ばしながら映像伝送実験を行いました。
結論から先に言うと、基地局からコンクリートの打設設備(セントル)がある400m離れた位置においても、70ms程度の超低遅延で4K映像が伝送できることを確認しました。
図1 実証実験の全体構成
写真1 基地局側から移動局側を撮った写真
(注:肉眼では見えないが、400m先にカメラと移動局(通信端末)を載せた軽バンがある)
低遅延性について
ネットワークカメラ(IPカメラ)は、アナログカメラと違って動画圧縮を行って映像伝送するため、表示するまでに大きな遅延があります。デジタルテレビやインターネットテレビの映像が数秒以上遅れて映るのと概ね同じ理由です。システム構成にも依存しますが、ネットワークカメラの遅延は一般に数100msから数秒あります。
コニカミノルタで開発中の低遅延カメラシステムでは、4K映像を撮影してからディスプレイに表示するまでの時間(Glass-to-Glass遅延)を50ms以下に抑えています。ただし、これはラボに構築した理想的な環境において有線LANで通信した場合の平均遅延時間です。
例えば今回の実験のようにローカル5Gを使った場合は、後述のような様々な要因により、遅延が増大します。5Gは1ms以下の低遅延を実現すると言われていますが、これはあくまで無線区間の遅延時間です。ローカル5G基地局を経由した通信端末間(End-to-End)の遅延は、一般には片道10ms前後はあるようです。また、遅延時間は通信エラーの影響を受けてさらに増大します。
遅延時間の内訳
Glass-to-Glass遅延時間は、カメラでの画像処理、動画圧縮処理、ネットワーク通信、動画伸張処理、映像表示処理という一連の処理時間の合計になります(図2)。
このうち、例えば、パソコンを使った映像表示処理はビデオカード上でのレンダリング処理の時間とディスプレイの表示時間の合計になります。リフレッシュレートが60Hzの一般のディスプレイの場合、画面の更新間隔が約16.7msでそれにパネルの応答時間が加わります。表示システムがすべて同期して動作しているわけではないので、ディスプレイへの入力タイミングがわずかに遅れただけで、表示処理による遅延時間が20ms以上大きくなる可能性があります。ただ、Glass-to-Glass遅延に対して、もっとも影響が大きいのは無線通信の遅延時間です。
図2 遅延時間の内訳
無線通信について
ローカル5Gのような無線通信では無線区間での通信エラーや、通信区間全体での通信パケットの破損や欠落(パケットロス)が原因で再送が頻繁に起きます。特に後者で再送が起きた場合は20ms以上遅延時間が増大します。また、H.264のような動画圧縮方式では各フレーム(ピクチャ)のデータ量のばらつきや動き補償の特性が原因で、エンコードの仕方によっては大きなジッターが発生します。ジッターはパケットロスの原因になったり、それ自体が遅延時間に影響を与えます。まず、これらの要因を極力抑えて通信を安定させることが必要です。
また、映画などの動画配信と違って、カメラ映像の配信にはリアルタイム配信が可能な通信プロトコルが必須になります。前者の場合、事前に保存された映像データを必要時に必要な量だけ一気に送って表示端末側のバッファに溜めておけば良いですが、後者は撮影されてからでないと映像データを送信できないため、表示する直前に細かな単位でムラなくデータを送り続けなければならないためです。リアルタイム通信プロトコルとして、最近はSRT(Secure Reliable Transport)という通信プロトコルが注目されています。パケットロス時の選択的自動再送要求や前方誤り訂正、そして適度な輻輳制御により、パケットロスが発生している状況でも比較的滑らかに映像が表示されます。我々のラボでの実験では200ms程度のGlass-to-Glass遅延が許容できるならば良好な結果を示しました。しかし、100ms以下の遅延に抑える必要がある場合にはSRTは最適ではないというのが結論でした。そこで今回はRTP(Realtime Transport Protocol)/RTCP(Realtime Transport Control Protocol)ベースで実験に適したRTPプロファイルのプロトコルを選択しました。
実験結果について
実験で使用したのはSub6(6GHz未満)の電波で送信電力は特別に高いものではありませんでしたが、基地局と端末の間に遮蔽物がないエリアでは400m離れた距離においても電波の受信状況は良好で、通信エラーが比較的少ない状態でした。
筆者は電波技術の専門家ではありませんので、漠然と200mの距離で通信できるかどうかだろうという程度に考えていましたのでこの結果には少し驚きました。無線通信ではフレネルゾーンという指標があり、送信側と受信側の間にこのゾーンが確保されていれば、電波伝搬のロスが少ない見通しが良い状態とされています。Sub6の電波周波数で距離が400mの時、フレネル半径は2m強なので、その高さにアンテナを立てれば理想的な状態となります。トンネルのような狭い空間でもSub6より高周波の電波を使えば、これくらいの距離であればフレネルゾーンの確保が十分可能です。ただし、間に遮蔽物がなく、トンネルが曲がっていないことが前提です。
映像の送受信においてはH.264の動画圧縮方式を使い、そのデコードと表示はノートPC上で行いました。通信状況が良い状態でしたので、映像品質も特に問題がない状態でした。遅延測定器のケーブル長の都合上、図3のような構成で往復の遅延時間を測定し、片道のGlass-to-Glass時間を割り出しました。400m離れた距離においても4K映像が平均70ms程度の遅延で伝送できることが確認できました。
図3 遅延測定の構成図
写真2 遅延時間の測定(移動局:5G端末側)
写真3 4K映像の品質確認(基地局側)
おわりに
5Gを使うだけで低遅延になるわけではなく、100msを切るGlass-to-Glassの超低遅延を実現するためには、カメラでの低遅延化はもちろんのこと、映像伝送システム全体で遅延を抑える工夫が必要です。このブログ記事がそのご参考になれば幸いです。
関連リンク
トンネル実証実験プレスリリース
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低遅延カメラ(FORXAI Experience Kit Low Latency)
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